ポシェットのこと 2
2011-8-5
ここからは、製造のことを少し専門的に掘り下げて書きます。
通常製造する時は、まとまった個数を作って合理的に作業をします。
裁断は、クッキー型のような刃の付いた抜型(ぬきがた)を使い、「クリッカー」という油圧プレス機で圧力をかけて革を切り抜きます。
今回使う抜型は、正式には「スウェーデン鋼刃型」というものです。
スウェーデンのメーカーが開発したことから、この名称で呼ばれています。
刃のついた細長いパネル状の鋼を型紙に合わせて曲げ加工をしたもので、クリッカーで革や布を裁断するための抜型です。
裁断には一般的に比較的安価なこのスウェーデン型が使われていますが、それ以外にも製法があり、用途によって使い分けます。
この型に、商品を作る工程に必要な情報(たとえば縫い合わせるための合印、釦をつける位置など)を盛り込みます。
紙型に合わせて刃を曲げるため、紙型のラインがそのまま型に現れます。
革の場合は、縫い直し、やり直しがききませんから、少しのミスで商品になる前に革が台無しになることもあります。
そのため線の微妙な曲がりや印の位置にも注意して依頼用に紙型を作り直します。
右画像は抜き型屋さんから型と一緒に戻ってきた紙型です。溶接の火花で所々焦げています。
素材は、ヌイトメルの他商品と同じ上質な革を使用します。
今回は馬革、オリジナルの鹿革を使います。
これは馬革。革を広げるとぼんやりと馬の形です。
馬のお尻は「コードバン」という最高級の革に使われる部分で、ここだけ他の部位と繊維や組織が違います。(この革からコードバンが取れるわけではありません)
そのためお尻に大きくしわが入っているのが馬革の特徴です。
この革をクリッカー(裁断機)で抜いていくわけですが、革は部位によって繊維や伸び方が違うため、適切な部位を見極めながら作業を進めます。
表地と同時に裏地も抜きます。
裏地には麻(リネン)100%のキャンバス地に、裏から薄くアクリルコーティング加工を施し、張りを出したものを使用します。薄い革もリネン裏地を使うことで、より丈夫に、使いやすくなります。
抜き上がった革に「漉き(すき)」というテクニックを施します。
といっても、この業界以外ではほとんどの方がご存じないでしょう。
革はもともと動物の皮膚ですので、種類によって厚さ、硬さが違います。
分厚い革は、作る物に適した薄さに加工したり、縫う部分だけ薄く加工したりします。
全体的に薄くすることを「割漉き」、縫う部分だけ薄くすることを「部分漉き」といいます。
「割漉き」は大きな機械で全面をスライスするため、業者で加工してもらったり、機械を使わせてもらったりします。
「漉き」には通常「漉き機」という小型の機械を使います。
他にも、漉くことで色々な効果があります。
その効果別に、漉き方にも色々種類があります。
今回施す漉きのテクニックは下画像の1~4です。
1、線堀り・・・革に線を引くように堀り込みをいれる漉き
2、縫い返し・・・鞄を縫い合わせて縫い返した時にきれいに見えるように厚みを調整する
3、縫い割り・・・縫って革用の糊を使って割る部分の漉き
4、漉き落とし・・・裏地と縫い合わせる部分の厚みを落として滑らかにする
今回は、シンプルに仕上げたいので、表からステッチを入れずに口部分をきれいに折るため(1)の漉き方を施しました。
裏の折れる部分をライン状に漉くことによって、表に返したときにすっきりと落ち着くのです。
こういう漉き工程、縫い代始末など、見えない裏部分の手の掛けかたで、全体の仕上がりに差が出ます。
たとえば(3)の漉き工程をした左画像に比べ、しない場合は縫い合わせると右画像ような具合にかさばった状態になります。
次に、口の内側真中にスナップ釦を付けるために、縫い合わせる前に先に釦を付けておきます。
ポンチで穴をあけてから釦を打ち込みます。
ここまでが準備工程です。
次はいよいよミシンで縫っていきます。
・・・ → 続きを読む ・・・