杞柳の産地へ

2013-6-1

5月末に、兵庫県豊岡市へ行ってきました。
豊岡は伝統工芸「豊岡杞柳細工」の産地です。
杞柳細工の材料は、コリヤナギ。
杞柳布(キリュウフ)の中にも紡がれているコリヤナギの皮は、杞柳布の染色の原料にもしています。
コリヤナギの皮を分けていただくために、今回は伝統工芸士のかたのお宅まで訪問させていただきました。

 

豊岡杞柳細工には1200年以上もの歴史があります。
古く、新羅の時代に朝鮮半島から渡来した技術とコリヤナギ(=行李柳)は、豊岡円山川の荒地に自生し、雪深いこの地域で冬越えの仕事として根付いたそうです。
但馬杞柳箱は奈良の正倉院にも収められていて、杞柳細工は江戸、明治、大正、昭和を経て現在へと続く、豊岡鞄の原点といえます。

柳行李はご存じの方も多いと思います。
行李というのは、昔は一般的に衣類の収納に使われていた、蓋付きの大きな箱のことです。
蓋が持ち上がるので内容量によって大きくなったり小さくなったり、とても理にかなっている形なんです。そのうえ籠は通気性が良く、軽くて丈夫で、材料のコリヤナギには、吸湿、調湿、防虫効果があります。昔の人の知恵はなんと素晴らしいんだろうと思います。

その小さなやつ、ご飯用の飯行李です。
日本の夏でも長時間ご飯が腐らないので、ごはんをふたにもぎゅうぎゅうに詰め込んで出かけたり、丈夫なので戦時中は兵士への配給で飛行機や列車から投げ落として使用されていたとか。

皮をむいた白いコリヤナギ。
ここから、太い部分は平らに裂いたりと、材料にするためにさらに手が加えられます。

かつては自生していた柳も、産業として栄えてからは栽培されるようになり、今は作り手それぞれの畑で育てられていて、杞柳細工はその栽培からが始まりなのでした。
初めて柳と聞いたときは、あの枝が垂れた「しだれ柳」を想像したものですが、コリヤナギの枝は上に向かって真っすぐに生えます。
早春、その株から芽吹いた新芽は、春から夏にかけて枝を伸ばしながらぐんぐん大きくなります。
節のない細い枝にするために頻繁に脇芽を摘んだり、虫にやられてしまうこともあり、良い材料を作るためには細かい手入れが必要だと言います。
冬のはじめに刈り取ったコリヤナギは、畑に並べて立てて冬ごもりに入ります。足元に水を絶やさないようにして冬を越え、春になるちょっと前に柳からつぼみが出てくるそうです。
4月末から5月にかけて、冬ごもりを終えたコリヤナギの皮を一気に、手作業で剥きます。
畑の納屋では農具と一緒に、皮をむき終えた今年1年分のコリヤナギが並べられていました。

 

豊岡は質の良い材料に向く気候だったのでしょう。
この地では、毎年1年をかけて杞柳とともに暮らしてきたことが伺えました。

杞柳細工は産業として栄えるようになってから、地域で栽培、成形、仕上げまで分業されていたそうですが、今は作り手が家族でその材料を作っています。分業にすればするほど、コストは抑えられますが、今はその逆です。
結果、手間をかけてもその対価に値しないので、技術の継承ができないといいます。
伝統工芸といえども、その後継者が育たないと、その伝統は途絶えてしまう。
コリヤナギの株は、10年ごとに植え変えないと質が保てないそうですが、伺ったお宅ではこの株が最後だと仰っていました。

今はまだ商品として手に入れることはできますが、いずれ博物館に展示されているものになるかもしれません。
そうやってなくなってしまうのだと、寂しくなりました。
日本全国どこでも抱えるであろう悩みが、ここにもあるのです。
職人で生計を立てるのが難しい現実は、いずれはそこに技術者がいなくなる、ということを意味します。
それは、どの分野の産業でも有り得ることだと思います。
文化、伝統を守ることは大事だと思いますが、
経済活動に組み込まれている以上、需要が少ないものを残すのは難しい。
それが淘汰というのか、私にはわかりませんが、
残すためにはとても強い意志とエネルギーが必要なんだろうと思います。
とはいえ、伝統を守り伝えようと組合や協会が頑張っていらっしゃるようですし、まだ大丈夫なのかもしれません。
いずれにしても、わたしにはどうすることもできないので、悶々とするばかりです。

伝統工芸士の保証シールには通し番号がついていて、きちんと管理されていました。

昔から使われている、鞄の木型と、飴色になった籠。
この材料の細い柳がもう手に入らないと仰っていました。

 

干したコリヤナギの皮をいくつもの米袋に詰め込み、たくさん持ち帰りました。
こういう話を直接伺うことなんてめったにないですし、とてもよい機会だったと思います。

途中、出石に寄って出石そばをいただきました。
染色に、こちらで出る蕎麦がらも使わせていただいています。

 

豊岡の地で染色していただいているかたの、娘さんご夫婦のお店です。
数枚のお皿に盛られた蕎麦と、山芋、ネギ、大根おろし、卵などの薬味のバリエーションが楽しめる出石そば。
蕎麦はもちろん、サメの皮でおろすワサビも、とっても美味しかったです。

(アツコ)

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